先日テレビをつけたら、一風堂の社長が取り上げられていた。その中で彼が言っていた言葉である。一風堂は学生時代より大好きなラーメン屋さんの一つであり、早稲田の一風堂の裏に住んでいたこともある。
「人間には無限の可能性がある。しかしたった一つしか選べない」。これは、彼が若い社員に向けて言った言葉のようだ。
「人の可能性は無限にある」。それはよく言われることであるし、そうなんだろうと思う。
しかし、それ自体は人に指針を与えない。その後の「一つを選ぶこと」ことが難しい。多くの人にとって、そちらが重要である。
会社をスタートしたばかりの若い起業家と話をすると、一つしか選べないことの重要性に気がつかない人が多いように思う。
一つしか選べないということは、多くの他の可能性を捨てることであり、多くの優秀な起業家、若いエンジニアにとって、あまり心地の良い考え方ではない。
「これもやりつつあれもやる」とか「まずいろいろと試してみて、そのうち方向性を固めていこう」といった感じである。ソニーもホンダもHPも、初期の製品が当った訳ではなく、いろいろと試す中で会社が軌道に載っていった、というエピソードも聞く。
しかし、インターネットやソフトウェアの領域は、非常にコンペティティブで、差別化が難しい。同じような商品やサービスが溢れている。
起業家にとって、いろいろと試すということは、一つのことを考える時間や施策を実施する時間が少なくなるということである。
顧客やユーザに対して、驚きのない製品やサービスを作ることになる。或いは作ったとしてもデモのようなもので多くの顧客に提供できる類のものでなかったりする。これでは何も成し遂げられない。結果として事業リスクも上がる。
今与えられている環境において、その時起業家自身が集中してやれることは一つだけだ。そこに全精力を集中しないと一点突破は図れない。一つのことを密度深く考えて、その領域でつきに抜ける。
一風堂の社長は、ラーメンを作り、お客に出し、それを食べてもらうことを、演出ととらえていた。
ラーメンを作り、お客に提供する店員は役者である、と。そこまでラーメンを作ることを密度深く考えて実施していけば、当然街中のラーメン屋さんとの差は出てくる。
一点突破しないとユーザや顧客に驚きは与えられない。「人間には無限の可能性がある。しかしたった一つしか選べない」。かつて”Only the paranoid survive”と言った、インテルの経営者、アンディ・グローブの言葉と通じる考え方である。
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